天下第一奇観(武陵源 1)

【張家界】

世界屈指の景勝地武陵源の観光は冬12月が穴場。ベストシーズンを外すためどこも混んでおらず、入場料は半額で、かつ寒過ぎるということもない。ことに観光客が少ない恩恵は大きく、中国で毎回悩まされる長い待機列や大混雑が無い環境はプライスレス。

ひとくちに武陵源と言っても、エリアは広大で見どころも多いので、チケットには4日間の有効期限が与えられている。2日間で回ったエリアとスポットは以下の通り。

<1日目>
・袁家界(天下第一橋、百龍天梯)
・天子山(御筆峰)
<2日目>
・黄石寨(五指峰、ロープウェイ)
・金鞭渓(峡谷散策)

今回は張家界市街に宿泊した為、ホテルからバスターミナルへの移動と、そこから武陵源への移動で、往復3時間以上かかる不便があった。張家界には天門山という見所があるが、天門山を外すなら、いっそ武陵源区内に泊まった方が良い。

いざ武陵源森林公園へ

張家界バスターミナルは、張家界駅の傍にある。朝路線バスでそこに向かったら、駅舎が霧に包まれて視認できず通り過ぎてしまった。バスターミナルでは手荷物検査を経て、案内板に従い停留所に出向くとミニバスが待機している。客が集まり次第発車する方式。料金は車内で徴収(12元)されるので、そのまま乗り込んでOK。

武陵源の主なゲートは、武陵源 / 森林公園 / 天子山、の3つがあり、バスターミナルから乗るべきミニバスも目的地ごとに異なる。この日は武陵源ゲート行きを選択。黄石寨や金鞭渓に行く人は、森林公園ゲート行きを選ぶ。残る天子山ゲートは、武陵源ゲートから天子山ロープウェイ駅までシャトルバス10数分で移動できる為、利用者は比較的少ない。

武陵源ゲート起点の地図

張家界から武陵源ゲートまでは1時間ほどで到着。ゲートのそばに停車してくれるわけではなく、少し道に迷ったが、降車後来た道を戻り、川に沿って武陵路を西に進めば良い。ちなみに帰りのバスは、往路の降車地点のほぼ対面に停車している。張家界行き最終便は19時半なので注意。


【330mのはしご】

立派な拵えのゲートで冬季料金136元のチケットを購入し、使い回し防止用の指紋登録を済ませ、晴れて入場。シーズン時は人で充満するゲート周辺もこの時は閑散。天子山ロープウェイ行きのシャトルバスを探したが見当たらないので、客が集まっている車に何となく乗った。するとバスは天子山と反対方角に発進し、しかも延々と走り続ける。公園内シャトルバスという語感から、乗車時間はせいぜい10分程度と踏んでたら、とんでもない誤りで、目的地に着いたのは何と1時間後、場所は百龍エレベーターの麓だった。

遠目にも目立つ百龍天梯

ここは袁家界というエリア。見上げる高さにエレベーターが達している。成り行きで到着したものの、どのみちこの乗り物は体験したかったので結果オーライ。片道チケット(72元)を買い列に並ぶ。視界の良いガラス窓際を確保出来るかは運次第。あいにく自分は最後尾で乗り込んだので、人々の頭越しに外の景色を眺める羽目に。地中をスルスルと上がり、地上に出て外観が開けた瞬間、乗客から感嘆の声が上がった。がそれも数十秒のことで、ほどなく頂上駅に到達した。

百龍天梯麓から見上げる景色

頂上駅からはシャトルバスで袁家界の中心地に向かう。数分の乗車後、天下第一橋を目指してようやくウォーキング開始。案内地図が所々にあるので現在地は把握しやすい。感心したのはきれいなゴミ箱。環境配慮のおかげでポイ捨ても見掛けなかった。各スポットは細かくネーミングされ、目標を定めやすい一方、多すぎて覚えきれない。

案内地図にはピンインも併記


【天下第一橋】

森林公園内の散策路は見事なまでに整備され歩きやすい。要所には「ここを見ろ」と言わんばかりに見晴台が設置され、大抵人が溜まってはいるが、休憩がてら景色を堪能するのに丁度良い。吹き付ける風と寒気も、歩きで火照った身体にはおあつらえ向き。
参考:張家界観光のベストシーズン

奇峰はまるで地上から伸びてきたかの様で、岩肌に自生する植物が景色を豊かにしている。岩石だけでも偉観だったろうが、いい按配に緑で彩られているので、どこを切り取っても一幅の画になる。

武陵源の象徴、にょきにょき観

高所は苦手で奈落を覗き込むと、落ちないと頭で分かっていても、吸い込まれそうな気がして身がすくんだ。柵に足をかけ身を乗り出している連中の気がしれない。

覗き込んでの撮影時はスマホを落としそう
高さが揃っている図

また暫く歩くと、絶壁同士をたまたま繋げたような岩が見えてくる。これが天下第一橋で、ネーミングが大袈裟な中国といえども、これには納得せざるを得ない。一見危なっかしいが、道幅は広いので、気付かないうちに橋を渡り始めていた。

見事なH型の断崖

橋の中腹で横を向くと、橋の幅分の空間が左右に展開しており、何だか浮いてる感じがする。堪能したいが人の往来が絶えないので立ち止まる余裕は無い。20mほどの横断はあっけなく終わり、見た目の不安定さとのギャップが、拍子抜けでもあり面白くもあった。

天下第一橋上からの眺め
意外に緑も豊かな景観

袁家界をあとにし、天子山の賀龍公園に向かった。道中シャトルバスで30分ほど。はたに座っていた男の子が、気に入らないことがあるたび幼児さながらに寝転んで喚く。母親は叱るどころかさらに甘やかす有様でげんなり。これがいわゆる小皇帝だろうかと、むしろ気の毒に感じた。

とある無人の停留所で、欧米の若者が運転手に地名を確認してさっと降りていった。撮影目的で、各ポイントを巡っているようだったが、漢字も読めないのに、こんな長大な山道でバスを乗りこなすのは大したもの。小皇帝と年の差10歳程と思うと余計対照的。


【若者とコーヒー】

賀龍公園は御筆峰や仙女献花がみどころ。すがたは土筆に似ていて、岩肌はカッターで削った鉛筆の木目を思わせた。団体客の賑わいはあるものの、夕方はさすがに人がまばらで快適な環境。陽が陰り始めたので、そろそろ帰る時間と考えた。

御筆とは皇帝の筆の意味

賀龍公園から天子山ロープウェイを下って武陵源ゲートに戻ろうと思い、ロープウェイ駅までのシャトルバス乗り場を、地図を見せつつ係員達に尋ねたら、手を振って無いと言われた。朝も行きのバスが見当たらなかったから、このルートは冬期メンテで閉鎖中だったかもしれない。ロープウェイの楽しみが1つ消え、またあの長い往路のコースで帰るのかと少々辟易。

植物が彩りを加えている
光の当たり加減で表情が変わる

シャトルバスで乗り合わせた若いカップルに、武陵源ゲートへの戻り方を一応確認すると、3人組だったらしく、行先が同じだからと案内すると言ってくれた。現地は基本中国語のみだが、彼らに英語が通じると思ったのはコーヒーを手にしていたから。中国滞在中、個人的に見つけた法則で、彼らが嗜んでるのがコーヒーかお茶かで、英語が通じるか否かの目安にしていた。

車中、3人目の眼鏡青年に国を訊かれ、日本人と答えたら、途端に会話が途切れる一幕があった。反日感情はひと世代前の話だと思ってたし不快な体験も無かったけど、かと言ってしこりが無くなった訳でもなければ、摩擦が無いわけでもない。改めてそこは留意せねばと思わされた。もっとも杞憂だったらしく、そっけない態度ながら最後まで気を遣ってくれたのは彼。別れ際に呼び止めて謝意を伝えたら、頷いて初めて頬を緩めた。

復路のルートは朝来た道と同じ。待機列の無い状況ですら2時間以上掛かる行程で、公園を出るのもひと苦労。次は下りの百龍エレベーターに乗るわけだが、今度は運に恵まれガラス窓際の位置を確保。岩壁を目前にした降下は中々見ものだったが、VRで代替出来そうな気もした。

待機列にて。ポジションは運次第。

武陵源ゲートまでの道中、赤ら顔をした農家風のおばちゃん母子が乗ってきた。観光客というか地元の人らしく、満員の車内でも子供連れ特権で席を空けてもらった様子。

そのうち子供が騒ぎ始める。カップルの彼女も「騒々しいわねぇ」とばかりそっと耳を塞ぐ。あんまりうるさいので様子を見たら、意外にも周囲のおばさん客達は楽しげな表情で、見守ったり声を掛けたりののどかな光景。煩わしさを感じる自分が狭量なだけだったらしい。

(2015/12/26)