迷子のグエル公園 (バルセロナ 3)

【広大な公園】

グエル公園は市中心部からやや離れており、元々住宅地として開発されながら、ほとんど売れなかったのもそれが理由らしい。高台に位置し敷地は広大で、世が世なら砦が築かれそうな立地だ。

グエル公園正面入口エリア

今回はメトロで訪れた。3号線バイカルカ駅 (Vallcarca) から、大通りを東に進み、バジャダ・ミラデ・ミラグロリア通りで左折、なだらかな上り坂をひたすら登っていく。途中エスカレーターが設置され、上がり切ると入口にたどり着く。ここからは軽いハイキングコースといった趣きになっている。

公園入口へのなだらかな坂

ちなみに公園正面口へは、3号線レセップス駅 (Lesseps) から徒歩20分程度。バスならカタルーニャ広場やカサ・ミラ、カサ・バトリョなどから発車している24番バスが公園東側入口に停車する。
参考:グエル公園の行き方と見どころ


【絶景の丘】

緑豊かな公園の道はよく整備されて歩きやすい。大勢の観光客について行ったので、まるで遠足気分。ほどなく十字架が立つ石の台座に着いた。ここはゴルゴダの丘といってイエスが磔刑に処された場所のモチーフと思しい。ごつごつした石段を登ると、モザイクの様に家々が密集した市街と、異彩を放つ建設中のサグラダファミリア、その向こうの海までが一望できた。身体に吹き付ける風が心地よい。

ゴルゴダの丘からの眺望

眺望を堪能後、さらに歩みを進めると、ゴールである広く開放的な中央広場が見えてきた。うねうねの壁に縁取られたベンチでひと休みしようとするも、陽を遮るものが無く、暑さで長居はできず。日陰を求めて、列柱ホールと呼ばれる真下に移動した。真上の広場で受けた雨を貯水できる仕組みになっており、実用性に感心。

賑やかな中央広場
南国らしい緑が目に鮮やか
広場真下の涼しい列柱ホール

列柱ホールの目の前が大トカゲやお菓子の家のゾーンで、グエル公園のメイン観光スポット。現在は中央広場から正面入口一帯は有料エリアなので、事前のチケット手配が無難。観光客の増加から当然の流れではあるものの、世知辛い感もある。

グエル公園のアイドル大トカゲ
口から流れる噴水は涎に見える

階段には有名な大トカゲが鎮座し、絶え間ない記念撮影に応じて忙しい。皆これを撮らねばグエル公園に来た甲斐が無いとばかりにポーズを取り、自分もやはりカメラを向ける。このモニュメントひとつが、グエル公園のイメージに及ぼしている影響は計り知れず、シンボリックな存在感は「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」の先駆だろう。


【グエル公園で迷う】

散策がてら、来た道を歩いて帰ることにした。正面入口からバイカルカ駅方面に向かう人は少なく、往路と違って、復路はひとりで山中を歩かねばならなかった。

方向音痴なので、つづら折りの公園道を何となく行き来しているうちに道に迷った。市街地は眼前なのに、そこへ抜ける道が見つからない。スマホで現在位置も取得できず、一旦足を止めて確実な情報の発見に努めた。

念のため撮影しておいた園内マップがここで役に立った。方位磁針アプリとグーグルマップで、方角と周辺の公道とを照合し、ようやく現在地と進む方向を把握。文明の利器が無ければ、もっと手間取っていたはず。

一応役に立った園内マップ
グエル公園脱出成功後の何の変哲もない街並み

いつになったら出られるかと途方に暮れていたので、公園を抜けファリゴラ通りに出た時の安堵感と達成感は忘れ難い。こんな有名地で彷徨う愚か者も稀だろうけど、副産物というべきか、以後外国で迷った時も「何とかなる」と変な自信がつき焦燥しなくなったのは、せめてもの救いだった。


【閑静のピカソ】

ピカソ美術館の最寄り駅は4号線ハイメ駅 (Jaume l) 。旧市街にあたり、両側の石造りの建築物によって空が細く、薄暗くひんやりとしているが、店や住居との距離が近い小路に風情がある。チケット売り場は10mほど行列していて、約10後に入場出来た。ここも予約した方がスムーズ。

キュビズムはピカソの代名詞だが、展示作品はその時期以外のものが多い。色彩鮮やかな人物画や風景画は、ピカソの到達点までの来歴を包括的に味わえる内容。年を経るごとの表現方法の移り変わりと幅広さに感じ入り、建物も昔ながらの落ち着いた雰囲気。ディスプレイも設備も申し分無く、お薦めの美術館だ。


趣あるピカソ美術館内の庭園

海岸への道すがら、美術館近くのサンタ・マリア・ダル・マル教会で小休止した。ヨーロッパ旅行時は、教会で佇む時間が好きだ。祈りの場であって休憩の場ではないと叱られるかもしれないが、空間が広くて涼しく、聖歌が奏でられれば恍惚のひとときになる。

古風なサンタ・マリア・ダル・マル教会


【バルセロネータ海岸】 

ビーチは、サンタ・マリア・ダル・マル教会から歩いて15分ほど。途中遊園地があり、かたわらに並ぶ観光客向けのレストランの客引きが、パエリアや海鮮の定番メニューを片手に呼び込みをしている。行楽地をやり過ごすと、褐色の砂浜と蒼い地中海が眼前に開けた。これがバルセロネータ海岸。

夕暮れ近いバルセロネータ海岸

バルセロナは多彩な顔を持っていて、中世さながらの石畳と建物、時代を象徴する美術品の数々、目の醒めるようなビーチ、いずれも歩いて30分程度の距離の中に収まっている。ここからロープウェイで丘陵を上がれば、城塞を擁すモンジュイックの丘で、その北西にはカンプノウが位置する。これほど様々な魅力がパッケージされた観光都市は中々無い。

砂浜の色濃さが地中海に映える

見所の詰まった街は自然に出来あがった訳ではなく、当海岸も幹線道路として埋め立てられていたのを、再整備して景観を蘇らせたもの。街並みは均一サイズの街区を格子状に配置し、ブロック群として整頓されている。石造りの建物の中にガウディやミロの斬新な作品を溶け込ませ、街独特の表情を創り上げるなど、人を惹き付け続ける魅力は、綿密な都市デザインの賜物と言える。

ビーチには遊歩道も整備されている

18時過ぎで気温もほどほどに下がり、夕暮れ間近の砂浜は、まだ大勢の人で賑わっていた。ビーチ傍らの遊歩道は歩行者用とサイクリング用に分かれ、脇をローラーブレードが走り抜ける。海の水平線上を、旅客機が頻繁に横切ってゆく眺めは、一幅の絵になっていた。

(2013/9/25)