ハプスブルグ vs オスマン (ウィーン 1)

【西欧の東、中東の西】

欧州を個人旅行でまわるなら、オーストリアとトルコを組み合わせると面白いと思う。理由は、ウィーンとイスタンブール間を2時間飛ぶだけで、キリスト教とイスラム教の両文化圏を体感できるから。また両国(両都市)とも、芸術、建築、史跡など見所が満載。交通網も発達し、治安も安定している。

歴史好きにとっては、ハプスブルグ家とオスマン家の対比も楽しい。それぞれの文明を代表する、大帝国の領袖の統治期間は、実は約600年ほぼ重なっている。その領土周遊は、世界史巡りとしても興味深いものになるだろう。

ライトアップされたホーフブルグ王宮

今回はトルコ航空を使って、ウィーンに入りイスタンブールを出る行程とした。年末出発で10万円はリーズナブルな感。

東京→ウィーン→イスタンブール→東京
(2013/12/17 〜 2013/12/31 合計99,480円)各国2都市ずつ、それぞれ1週間滞在。
主なTo-Doリストは以下。

 <オーストリア>
ウィーン(美術館観賞、クラシック・オペラ観賞)
ザルツブルグ(映画「サウンドオブミュージック」撮影地見学)

<トルコ>
イスタンブール(史跡見学、トルコ料理)
カッパドキア(気球ツアー、地下都市ツアー)

クリスマスシーズンの欧州は街のライトアップも見どころだが、ひとたびイスラム教圏に入ればそんな気配はすっかり消えてしまう。そんな差異も異文化圏を跨る旅ならではの醍醐味だった。


 【フライト欠航】  

夜、成田空港の出発ゲートで、トルコ航空TK53便の搭乗時刻を待っていると、何の前触れもなくフライトがキャンセルされた。こんな事態は以前ANAでも体験済み。その後は大体以下のような流れになる。

①欠航発表後は、航空会社から次の案内があるまで待機。(ANAでは空港内飲食店用のクーポンが支給された)
②2,3時間後に案内があり、乗客全員出国手続きのキャンセルを行う。(パスポートの出国スタンプにVOIDと上書きしてもらう)
③手続きが済んだ乗客から順次、シャトルバスで近くのホテルにピストン輸送される。
④ホテル受付で乗客名簿と照合してチェックイン。ホテルでの夜食と朝食は無料。(フロントまたは部屋電話で、代替フライトの案内がある)
⑤翌朝、代替フライトの時刻に合わせて、ホテルのシャトルバスで空港に向かう。(ANAではチェックイン時に朝食代1,000円が支給された)

代替便はオーストリア航空に振り替えられた。結果、イスタンブール経由からウィーン直行になり、現地滞在の半日分が潰れただけで、トータルでは条件が良くなった。この類のトラブルでいつも感じ入るのは、対応に追われるスタッフの奮闘ぶりで頭が下がる。※オーストリア航空は2016年に日本を撤退した。


【ウィーンの地下鉄】

ウィーン空港でイミグレ通過後、ウィーンカードが買える観光案内所を探した。期間内(24/48/72時間)市内移動分の公共交通機関が無料になり、かつ美術館の割引が付くパスで、ホテルまでは電車移動になるから、予め空港で調達したかった。ちなみに、パリのミュージアムパスに比べると割引は少なく、あまり市内を移動したり美術館を回らないならお得感は落ちる。
参考: ウィーンカードは得?(AB-ROAD) 

観光案内所の場所を、かたわらで暇そうにしていたスタッフに尋ねたら、不機嫌そうに顎をくいと上げて示された。確かに間近にあったが、何ともぞんざいな態度。空港勤務者は、旅客が最初に接する事になる現地人だから第一印象は大事。愛想の良さまで求めないとしても、オーストリアは観光立国だけに残念な対応だった。

空港から市内まで最安の移動手段は、快速列車(シュネルバーン)S7。空港は市郊外扱いなので、市内エリアも移動するなら、チケットは市外分と市内分の計2ゾーン分が必要になる。券売機では、画面内の"Sigle VOR ticket with selection of zones"ボタンを押して、"2zone" (4.40€) を選択。ただしウィーンカード (or フリーパス) があれば、市内分は無料だから、市外分"1zone" (2.20€) のみでOK。

空港駅構内の電光掲示板にフロリツドルフ駅 (Floridsdorf) 行きと表示されるS7シュネルバーンは、30分おきに発車。主要駅ウィーン・ミッテ駅までは25分ほど。
参考: ウィーン地下鉄の切符の買い方 

メトロ「Uバーン」は5路線に分かれ、それぞれ色分け表記されている。路線図はこちら。改札は無いが、切符またはウィーンカードやパスの使用前は、刻印機での打刻を忘れないように。乗客はほとんど定期所持らしく券売機を使う人は稀で、駅構内の人の流れはスムーズだった。電車のドアは手動式で、ハンドルとボタンと2つのタイプがある。

乗り換えや所要時間の検索は「ÖBB Scotty」が便利。ネット接続が必要だが、有名観光地では無料WiFiが使える事も多いので、ルート作りの際、度々お世話になった。
リンク: ÖBB Scotty (Android / iOS)



例)空港からオッタクリンク駅までの路線図

市内に入ると帰宅ラッシュと重なり電車内はごった返した。人混みに揉まれていると、着いて早々なのに、そこに溶け込んでいくかのような錯覚を覚える。防寒用のニット帽姿を多く見かけるが、なぜか若い女性の間でネコ耳帽子が流行っていた。ドイツ系のキリッとした美女が、誇らしげにネコ耳帽をかぶっている姿は、変にアンバランスで、何となく親しみを感じた。


【夜の市庁の賑わい】 

ウィーンのホテル料金設定は高く、クリスマスのような繁忙期は、やや中心地を離れた狭いシングルルームでも、予算5,000円位は見なければならない。ただ宿泊施設に定評あるドイツ圏だけに、清潔さや設備は一定のレベルで確保されているので、その点は安心。

初日から3泊したのは、U3オッタクリンク駅から徒歩10分ほどに位置する小ホテル。部屋は猫の額のようだったが、昔の映画で見かけるような、吹き抜けの広間と回廊が特徴で、そんな旧式っぽさが古都ウィーンの建物らしくて気に入った。

チェックインしてすぐ、夕食がてら、最大規模を誇る市庁のクリスマスマーケット見物に出た。街はまだ18時過ぎなのに店じまいしている所が多く、真夜中のように閑散としている。侘しさを感じながら歩いていると、ライトアップされた市庁舎が見え、途端に世界が変わった。電飾に彩られた屋台が軒を並べる中、大勢の客で賑わっている。おとぎ話の村が出現したかのよう。

ライトアップされた市庁

こんな恍惚とした場所では、何でも美味しそうで、看板からメニューを物色してみる。定番の"HOT・DOG"は茹でたソーセージをパンに挟んだもの。それよりは、香ばしく焼きあがった"BRATWURS"に食欲をそそられた。注文を試みたら、言葉が中々通じず、向こうもやや突慳貪な対応。そういえばドイツ語を何も予習していなかった。

気温は3℃前後だったろうか、手袋を外してかぶり付いた時はジューシーさに舌鼓を打ったものの、すぐ掌が冷たくなり、食べ物も瞬く間に冷え、最後はすっかり不味くなった。

クリスマスマーケットの屋台

屋台には食べ物だけでなく、工芸品やお菓子屋などもある。あたりには温ワインの甘酸っぱい香りが漂っていて、その匂いときらびやかなイルミネーションは現地の人たちにとって、子供の憧憬なのかも。趣は異なるが、日本のお祭りの屋台に通じる雰囲気があり、異邦人の自分もなぜか懐かしい気分にさせられた。

2013/12/20

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<ハプスブルグとオスマンの概史>
オーストリアの名の由来は「東の地」という。この呼称自体、この辺りまでが1つの文明の境界だった事を示しており、13世紀末にスイス出身のハプスブルグ家が神聖ローマ帝国の君主に選出され、以降ウィーンを根拠地としてこの領域に地盤を築き始める。

ほぼ同時期の14世紀初頭、その東のアナトリアでオスマン家が勃興する。バルカン地方にまで勢力を伸ばした後、1453年ビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルを攻略し、名称をイスタンブールと改称し新たな帝都とした。この結果、バルカンを緩衝地帯として、西方のハプスブルグ家と向かい合う構図が出来上がる。

16世紀に絶頂期を迎えたオスマン帝国は、1529年にはウィーンに侵攻(第一次ウィーン包囲)、西欧世界に衝撃を与えた。ただし世界史においては、大体この時期までがイスラム教圏がキリスト教圏に対して優勢だった最後の時代で、17世紀末頃から徐々に形勢が逆転、新興ロシアの南下も加わり、中欧のパワーバランスに変化が生じ始める。

そして西欧で起こった産業革命とフランス革命は、世界規模での西欧諸国の圧倒的なプレゼンスを招き、オスマン帝国はその流れから完全に取り残されてしまう。

もっともその波は、ハプスブルグ家をも時代の主役から突き落とす。産業革命には乗り遅れ、帝位を世襲していた神聖ローマ帝国はナポレオン戦争によって崩壊し、19世紀に台頭したプロイセンはドイツ圏の覇者としてオーストリアを圧倒した。

むかえた20世紀、第一次世界大戦を契機に、オスマン帝国はトルコ共和国として、ハプスブルグ家のオーストリア=ハンガリー帝国もまたオーストリア共和国として、いずれも帝政が廃止され、国民国家に生まれ変わり、今日にまで至っている。

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<トルコ航空の旅程>
東京→(イスタンブール経由)ウィーン→イスタンブール→東京

[TK0053]       
 22:30 成田空港発
 04:20 アタテュルク国際空港着
[TK1883]
 08:10 アタテュルク国際空港発 
 09:40 ウィーン国際空港着
[TK7893]
 13:10 ウィーン国際空港発
 16:30 アタテュルク国際空港着
[TK050]
 17:15 アタテュルク国際空港発
 11:30 成田空港着