ツアーで巡る古城 (ロワール)

【古城ツアーの選び方】

ロワール川流域の城めぐりは、フランス旅行の定番のひとつ。ガイドブックを彩る古城の優美で豪華な景観は、思わず「行ってみたい!」と惹き付けられる魅力がある。

要塞より宮殿のようなシャンボール城

古城巡りツアーの種類は3つに大別できそう。
トゥール発半日ツアー(城2つ)約40€
トゥール発1日ツアー(城4つ)約60€
パリ発1日ツアー(城3つ/入場料+ランチ+日本語ガイド付き) 約170€

ロワール観光の拠点はトゥールで、パリからTGVで約1時間の都市(片道約30€)。①②の場合、自らトゥールまで移動する必要があるが、その分パリ発1日ツアーよりは安い。ただし③は入場料と昼食代込みなのに対し、トゥール発ツアーは各城への入場料(約10€)が掛かるから、手間も鑑みれば、結局大差無いかもしれない。

ツアー種を問わず、必ず訪れる城はシャンボール城シュノンソー城。紹介されるイメージ写真もこの2つが多く、古城巡りのシンボル的存在だ。逆にこの2つさえ訪れれば、それなりに満たされる面はあった。

今回選んだのは、トゥール午後発半日ツアー。理由は現地への鉄道旅も楽しみたかったから。午前は列車内で朝昼兼用の食事を摂りつつトゥールへ移動し、午後から現地ツアーに参加するスケジュール。

予約はツアー催行会社トゥーレーヌ・エヴァジオン (TOURAINE EVASION) のHPから申し込んだ。ほどなく確認メールが届き、クレジットカード番号とその有効期限を返信するよう求められる。セキュリティが不安だったが、向こうでは普通の慣習のようだ。電話でカード番号を伝える方法もあるが、ともあれ先方で管理は出来ているらしく、問題は生じなかった。フランスはカード社会だし、老舗の旅行会社だから、多分大丈夫だろう。。

ツアー予約はベルトラ (VELTRA) も定番。世界各国の様々なオプショナルツアーが揃い、検索のし易さや詳細の説明も行き届き、使い勝手が良い。


【パリ〜トゥール鉄道旅】

パリには6つの主要ターミナル駅があり、目的地によって出発駅が異なる。トゥール (Tours Centre) は南西方面なので、パリ市南側のオステルリッツ駅 (Paris Austerlitz) から出発する。駅名の由来は、ナポレオンの三帝会戦で知られる現在チェコ領アウステルリッツ。在来線 [Intercités] の直行便で約2時間後、12時40分に到着した。
参考:パリ鉄道主要駅(モンパルナス&オステルリッツ)

オステルリッツ発トゥール行 (Intercités 2e Class)

トゥールからパリへの復路の話をすると、パリ着駅は往路と異なり、モンパルナス駅 (Paris Montparnasse) 。直行便ではなく、トゥール駅を連絡線 [Shuttle]で出発し5分後、一旦サン・ピエール・デ・コール駅 (Saint Pierre Des Corps) で降車し、同じホームに来るパリ行きTGVに乗り換える。所要時間は計1時間15分。乗換はやや面倒だが、全体の乗車時間が短いのは楽。


【古城ツアー開始】

13時スタートのツアー集合場所は、トゥール駅から徒歩1分の事務所前。駅を出て右のエドワール・ヴァイヤン通りを北に進めば、ウルトゥルー通りの向こう側に "OFFICE DE TOURISME" と銘打った建物が見えてくる。

トゥーレーヌ・エヴァジオン集合場所

車は8人乗りのミニバン。最後部座席に乗り込み、隣には中国人カップル、その前の座席にスペイン人中年男女3人組の計6人。乗る際オーディオ機器を渡されるが、これは日本語対応の音声ガイド。もちろんツアー料金に含まれている。

ドライバーは温和な中年男性でスペイン語も話す。前の3人組との雑談からカタルーニャという単語が聞こえ、おととい自分もそこから来たぞと縁を感じ、フランコ時代のスペイン出稼ぎ人を描いた仏映画を思い出したりもした。

出発後しばらく音声ガイドに耳を傾けるも、声のトーンが絶妙に眠気を誘い、結局中身は頭に入らなかった。QRコードを用意し、客自身のスマホで映像を見させたら、機器を用意する手間も省けるのだが。ついでに近場のCMでも流して、広告料金分を買い物クーポンや、ツアー代金割引などで還元してくれたらなお嬉しい。ちなみにこのツアーは、途中土産物屋に立ち寄る野暮は無かった。


【シャンボール宮殿】

ひと口に城と言っても色々。シャンボール城は一応濠を構え、三角錐の尖塔も城っぽいビジュアルながら、広大な平地に建つ様は、要塞というより巨大宮殿といった方がしっくりくる。大砲の進化により、高くて厚い城壁が意味をなさなくなった結果、こんな長閑な様式になった。その華麗な正面写真を撮るには、見学コースから外れ、濠に沿って少し歩く必要がある。

欧州の城のイメージぴったりの姿

城内はだだっ広く、大勢の観光客を呑み込める。所々で見かけるストーブは立派な誂えで、これ無くして大きな部屋では寒さをしのげないのだろうと、その暖かさを体験してみたく思った。階段を上りバルコニーから望む芝生の庭は、先が見えないほどの道が一直線に伸びて壮観。狩猟の拠点にしては大変なスケールで、軍事拠点というより大地主の屋敷のよう。

狩猟の拠点だったシャンボール城

駐車場に戻った時、ドライバーに「後部座席から助手席に移りたい」と申し入れた。自分は唯一の1人参加なので、その方が気楽だったから。彼は確かめるように言った。「俺の隣に座りたいのかい?」「ええ、まあ」

助手席は案の定快適で、そのうち自分が運転してる様な感覚に陥った。原因は左ハンドルで、普段運転席の視界なのに運転していない状態に、脳が違和感を覚えたらしい。近未来自動運転車が普及したら、操作しない事に落ち着かなくなる"運転手"が続出するのかも。

フロントガラスいっぱいに映し出される緑と河の風光明媚なロワール渓谷の眺めは、時速100km以上のスピード感と相まって、得も言われず気分が良い。爽快なドライブは、車内から見るだけの「車中観光」より余程価値があった。心地良さにウトウトし始めると、ドライバーがしきりに話しかけてくる。世間話だったり車中見学の城の解説だったり。最初は訝しかったが、気を遣ってくれてるのだと気が付いた。1人で退屈だから隣に座ったのだと解釈してくれたらしい。

厚意に感謝しつつ、そんな時に限って、麻酔のような眠気が繰り返し押し寄せる。10日間の旅行最終日だけに疲れも蓄積していた。徐々に対応が億劫になり、とうとう会話を打ち切るように目を完全に閉じ、そのまま眠りに落ちてしまった。


【シュノンソーの女たち】

小雨の中、森の小路をしばらく歩くと、その先にシュノンソー城が現れた。小ぶりな館は可愛らしい別荘という趣きで、代々の城主が女性だったのも納得。城の前を占める2つの庭園にはそれぞれ、ディアーヌ・ド・ポワチエカトリーヌ・ド・メディシスの名が冠されている。

瀟洒な雰囲気のシュノンソー城

16世紀前半のフランス国王アンリ2世の愛妾がディアーヌで、正妻がカトリーヌ。アンリ2世は、槍試合での落命がノストラダムスによって予言されたという、オカルト的エピソードでも有名。

美しいディアーヌ・ド・ポワチエ ※Wikipediaより

ディアーヌは少年アンリの憧れの女性で、後年愛人関係となった。一方、政略結婚で輿入れしたカトリーヌは、夫の愛情に恵まれなかったとされる。ここシュノンソー城も、元々カトリーヌが所望したのに、ディアーヌに与えられたもの。目立つディアーヌの庭と、どこか遠慮がちなカトリーヌの庭は、両者の立場を示しているようにも見える。

城から向かって右に位置するディアーヌの庭
左は小ぢんまりとしたカトリーヌの庭

ただし両者の立場は、アンリの死で逆転し、後ろ盾を失ったディアーヌは当城から追放される事になる。もっとも意趣返しはそこで終わり、庭園の名もそのままで今に至る。国王死後30年間権勢を振るったカトリーヌにしては、あっさりした処置という印象だ。

一見ライバルの2人だが、生前アンリがカトリーヌを軽んじなかったのは、ディアーヌの口添えがあったからとも言われる。おかげで子宝に恵まれたカトリーヌは地位を確立でき、ディアーヌはその子供達の養育を担った。淑女協定と言うべきか、彼女達の利害関係は際どくバランスが取れ、仇敵同士になり切らなかったのかも知れない。

美しくないカトリーヌ・ド・メディシス ※Wikipediaより
カトリーヌ・ド・メディシスの寝室

年齢が20歳ほど離れていたのも一因だろうか。恋敵が同年代なら憎々しくもなろうが、相手が大人の女性であれば、三角関係も泥沼化しにくい面があったと思しい。この場で展開された人間模様は、それを眺めてきた部屋の空間に閉じ込められている気がした。


【フランス料理の出発点】

シュノンソー城は1時間もあれば見回れる。個人的には厨房が興味深かった。鍋やフライパンなど現代のキッチンと同じものがある一方、肉を断ち切る鉈や、それらを吊るす鈎などには野蛮性が残っている。ごった煮のシチューや、無造作に盛りつけられたぶつ切りの肉、そこらに散乱する血や骨など、当時の光景が浮かぶよう。

調理器具あふれる城内の厨房

元来フランス人の食事は手づかみだったが、フィレンチェ出身カトリーヌの嫁入りに伴い、イタリアの先進的な食文化が浸透し、これがフランス料理発展のきっかけになった。一品ずつ出す方式はのちにロシアから取り入れたもの。受容性は文化大国醸成の源泉で、19世紀ジャポニズムの中心もフランスだし、アニメ好きが多いオタク大国ぶりも、その流れに見えなくもない。

城内見学のあと庭をゆっくり散策した。ちょうど小雨も上がり、足元から漂う濡れた草花の匂いが心地良い。ドライバーの話では、この城が観光客にもっとも評判が良いのだという。納得。

絵になる別荘といった趣

ツアーは定刻より10分ほど早く解散した。心残りは別れ際ドライバーにお礼を言った後、ついそのまま立ち去ったこと。心付けくらいは渡すべきだったかもしれない。料金はチップ代込みと明記しているツアーもあるが、心に引っかかるくらいなら、数ユーロは高くなかったはずだ。

(2013/9/28)

<参考> SNCF パリ ⇔ トゥール 

-------------------------------------------------------------------------------------
TRAIN Aller - Retour | PARIS <=> TOURS | 1 passenger | 59.30 EUR
-------------------------------------------------------------------------------------
Departure: PARIS AUSTERLITZ - 10h38 - 28/09/2013
Arrival: TOURS CENTRE - 12h40
Intercités - 14041 - 2e Class
-------------------------------------------------------------------------------------
Departure: TOURS CENTRE - 20h01 - 28/09/2013
Arrival: SAINT PIERRE DES CORPS  AT FOUR KM OF TOURS - 20h06
Shuttle - 06350 - 2e Class
-------------------------------------------------------------------------------------
Departure: SAINT PIERRE DES CORPS  AT FOUR KM OF TOURS - 20h15 - 28/09/2013
Arrival: PARIS MONTPARNASSE 1 ET 2 - 21h15
TGV - 08350 - 2e Class
-------------------------------------------------------------------------------------